内的自己対話―川の畔のささめごと

日々考えていることをフランスから発信しています。

2016-03-01から1ヶ月間の記事一覧

コミュニケーションの可能性の条件としての第一次情報形成過程 ― ジルベール・シモンドンを読む(41)

昨日まで三日かけて読んだ段落の最後の文は、「情報(化)とは、或るシステムがそれにしたがって個体化するところの意味(方向性)であるから、常に現在に属し、現勢的である」と主張していました。この文の末尾には脚注が一つ付いています。今日はその注を…

情報は個体化過程の中にしか在りえない ― ジルベール・シモンドンを読む(40)

今日は、一昨日読み始めた段落の最後まで読みます。といっても、原書で五行ほどの短い文章です。 l’information suppose un changement de phase d’un système car elle suppose un premier état préindividuel qui s’individue selon l’organisation découv…

両立不可能なもの同士が問題解決システムとして組織化されるとき ― ジルベール・シモンドンを読む(39

昨日読み始めた « information » についての段落の続きを読みましょう。この段落の内容は、今日のようないわゆる高度情報化社会に生きる私たちにとってきわめて示唆的に富んでいます。この本の主要部分が博士論文として提出されたのが1958年のことです。徹底…

情報の初元の生成過程 ― ジルベール・シモンドンを読む(38)

今月二日から、一回だけ別の話題の記事を書いた以外は、ずっと「ジルベール・シモンドンを読む」の連載を続けています。まだまだ序論を読み終わるまでには時間がかかります。別に締切りのある話ではありませんから、先を急ぐことなく、毎日焦らず怠らず続け…

父母未生以前本来の面目あるいは「そのうちなんとかなるだろう」― ジルベール・シモンドンを読む(37)

今日日曜日午前二時に夏時間に切り替わりました。時計を一時間進めます。夏時間、日本との時差は七時間に縮まります。今日だけ一時間「損」したことになりますが、これは十月の冬時間への切り替えのときに「得」した一時間のつけを払うようなものです。毎年…

存在が心を持つとき ― ジルベール・シモンドンを読む(36)

蝸牛ペースの読解作業は今日も続きます。側でじっと観察しているとほとんど進んでいないように見えるが、観察した場所に数日後に戻ってみると、いつのまにか有意的に前進しているという風でありたいと思っています(それでも、大股で闊歩する人間たちからは…

大きさを異にした秩序間の相互的情報交換システムの形成 ― ジルベール・シモンドンを読む(35)」

昨日ようやく読み終えた段落の末尾に脚注が一つ付いています。今日はそれを読みます。 Nous voulons dire par là que l’a priori et l’a postériori ne se trouvent pas dans la connaissance ; ils ne sont ni forme ni matière de la connaissance, car il…

存在のはじまり、それは原初的な中間状態から発展する「繋がり」― ジルベール・シモンドンを読む(34)

今月18日から読み始めた段落も、その本文を読むのは今日が最後になります。ちょうど一週間かかったことになります(一週間で一頁弱とは、なんとも情けない...)。 今日読む箇所は少し長いのですが、まず全文引用します。 La distinction de l’a priori et de…

問題解決としての知覚、そして学知 ― ジルベール・シモンドンを読む(33)

今日も一文だけです。まず直訳してみます。 La perception, puis la science continuent à résoudre cette problématique, non pas seulement par l’invention des cadres spatio-temporels, mais par la constitution de la notion d’objet, qui devient so…

生命の世界の起こりをどう考えるか ― ジルベール・シモンドンを読む(32)

今日は、昨日まで読んできた文章の次の一文だけを読みます。 Dans l’unité tropistique il y a déjà le monde et le vivant, mais le monde n’y figure que comme direction, comme polarité d’un gradient qui situe l’être individué dans une dyade indéf…

個体化過程に到来する「先験的」な形式 ― ジルベール・シモンドンを読む(31)

六つのポワンヴィルギュル(セミコロン)で区切られた七つの文で構成された十四行に渡る文章の残りの四つ文は以下の通りです。この四文は、質料形相論的図式および先験論的構図の批判として一まとまりをなしています。 Ici encore il faut se détacher du sc…

認識のはじまりにある有極性世界 ― ジルベール・シモンドンを読む(30)

昨日の記事で引用した二文の次の一文を引用します。 la connaissance ne s’édifie pas de manière abstractive à partir de la sensation, mais de manière problématique à partir d’une première unité tropistique, couple de sensation et de tropisme, …

心理活動の意味を環境の中で捉えるために必要な作業 ― ジルベール・シモンドンを読む(29)

個体化理論の中で、或る準安定状態が孕んでいる葛藤に対する解決としての心理活動とはどのようなものなのでしょうか。それを理解するためには、生命における一連の準安定的システムが、あるシステムから別のシステムへと、どのようにして段階を追って成立・…

個体化、それは問題解決のための新しい公理系の発見 ― ジルベール・シモンドンを読む(28)

昨日の記事の末尾に、亀や蝸牛のように遅々としたペースで読んでいくと書きましたけれど、今日から月末までは、それよりもさらに遅くなるというか、もう一日に原テキストの二三行ずつについてメモを残しておく程度の記事になります。 このペースダウンの最も…

非実体論的関係概念 ― ジルベール・シモンドンを読む(27)

昨日と同じ要領で段落の最後まで読んでしまいましょう。 これまで読んできた中でもすでに何度か繰り返されてきたことですが、個体は実体ではありません。そして、ここで、個体は集団の単なる一部分でもない、と明言されます。 では、集団とそれに参加する個…

主体としての個体は「問題的な存在」である ― ジルベール・シモンドンを読む(26)

昨日の記事では、「通・超個体的」(« transindividuel »)という概念が新たに導入される箇所を読みました。今日はその続きを読みます。ですが、原テキストの訳に私の解釈と補足をかなり思い切って随所に織り込んでありますので(こんなこと論文じゃ絶対に許…

心理的個体と集団との相補性あるいは「通・超個体性」について ― ジルベール・シモンドンを読む(25)

自分自身が抱えている問題を解決するために行為を通じて世界の一要素となって働くとき、個体には「心理」(« psychisme »)という次元が発生する。これが昨日読んだ箇所の要点でした。 しかし、この心理的存在と成った個体は、己自身の内だけで自分固有の問…

物理・生命のレベルからから心理・集団のレベルへ ― ジルベール・シモンドンを読む(24)

昨日まで、一般存在生成論に他ならないシモンドンの個体化論を、個体化の第一範型である物理レベルでの個体化から始めて、物理レベルには還元できない特徴を備えた生物レベルでの個体化まで辿ってきました。 今日から、「心理(現象)」(« psychisme »)と…

生成する存在としての関係 ― ジルベール・シモンドンを読む(23)

昨日の記事で読んだシモンドンの仮説からどのような帰結が引き出されるのでしょうか。原文では、仮説提示の直後に、その仮説から導かれうる帰結が控えめな表現で提示されています。その提示の仕方は簡潔ですが、「関係(連関)」(« relation »)「内的共鳴…

個体化は新たな種々の個体化をもたらしうる ― ジルベール・シモンドンを読む(22)

昨日までILFIの「序論」をずっと読んできました。個体化(individuation)、前個体化的現実(réalité préindividuelle)、準安定性(métastabilité)などの根本概念のシモンドンによる規定を追ってきました。 それらの規定を踏まえて、特に生命のレベルにお…

生命の本質は相互「媒介」(《 médiation 》)にあり ― ジルベール・シモンドンを読む(21)

今日も、生物レベルでの個体化の特徴を物質レベルでのそれと対比しながら論じている箇所を読んでいきます。 まず、シモンドンがイタリックで強調している次の一文を見てください。 L’individu vivant est système d’individuation, système individuant et s…

生命体は自己情報化によって問題解決を図る個体である ― ジルベール・シモンドンを読む(20)

生命体は恒常的な「個体化の劇場」である ― これが昨日の記事で見た、生物レベルでの個体化の第一の特徴でした。 今日の記事では、生物レベルでの個体化の第二の特徴を見ていきましょう。 生命体は、ある一定数のバランスを保持するだけの自動機械に比される…

「個体化の劇場」としての生命体 ― ジルベール・シモンドンを読む(19)

昨日一日だけシモンドンの連載をお休みしましたが、また今日から再開します(お疲れ様です)。 ただ、文体を変えてみることにします。です・ます調にしてみようと思うのです。調であって体ではないのは、いわゆる「常体」もときに交えるからです。すでに何度…

「「遠く悲しき別れせましや」あるいは亡児悲傷 ―『土佐日記』を読む

今日は、シモンドンの連載をお休みします。 その理由は、準備ができていないから、ということではないのです。シモンドンについて書くことならまだいくらでもあるのです。が、なにせテーマが途方もなく大きいだけに、ときどき息を入れないと、連載途中でばっ…

個体化の真の原理は媒介である ― ジルベール・シモンドンを読む(18)

シモンドンが個体化過程の物資レベルでの範型として挙げるのが、結晶体特に水晶体の形成過程であることはすでに述べた(こちらの記事を参照されたし)。 この水晶体形成過程を考察することが、ミクロのレベルでの状態に基づいている現象をマクロのレベルで把…

新しい世界像の展開の先蹤 ― ジルベール・シモンドンを読む(17)

シモンドンは、個体化の結果として暫定的に得られたに過ぎない個体から事後的に世界を再構成するあらゆるタイプの思考を批判する。なぜなら、それはまさに本末転倒だからである。ところが、基底として何らかの安定的な自己同一的な要素を、単数か複数かの違…

初元の「準安定(状態)」から生じる個体の相補性 ― ジルベール・シモンドンを読む(16)

個体化過程は、安定か不安定か、あるいは、運動か休息か、という、互いに他項を排除する二者択一的な思考では捉えることができない。そこでシモンドンが導入するのが「準安定(状態)」(« métastabilité »)という物理科学的概念である。 この概念が個体化…

「緊張した過飽和状態にあるシステム」― ジルベール・シモンドンを読む(15)

ILFIの序論の昨日の続きを読む(p. 25, l. 33 -p. 26, l. 4)。 繰り返しになるが、シモンドンにおける個体化を理解するためには、存在を、実体、物質、あるいは形相などと見なしてはならない。個体化は、「緊張した過飽和状態にあるシステム」(« système t…

「生成を通じての存在保存の原理」― ジルベール・シモンドンを読む(14)

ILFI の序論は、十四頁と比較的短いが、そこには個体化原理の一般理論が展開されており、後続の四部を理解するために必須の諸概念の基本的規定をそこに読むことができる。だから、ゆっくりと丁寧に読みながら、シモンドンが構想する哲学のよりよい理解に努め…

生成は存在の一次元である ― ジルベール・シモンドンを読む(13)

ILFI の序論を少しずつ読み、読んだ箇所についての私なりの理解やそれに触発されて考えたことなどを記していくことにする。 存在と生成とを対立させて考えるのが妥当なのは、存在のモデルとして実体を想定する思考の内部に限られる。その思考の狭隘さを批判…