内的自己対話―川の畔のささめごと

日々考えていることをフランスから発信しています。

2022-04-01から1ヶ月間の記事一覧

来月の新刊 H・コバヤシ著『かん蛙ヒント」』 ― ゴールを目指さずにただ独り走り続ける「運動体」

うらうらと照れる春日の土曜の午後、禁断の葡萄酒を飲みながら、この駄文を弄している。 Shôwa(こうアルファベットで書くとShoahに似ている)の遠い昔、右も左も、上も下も、まだわからなかった若き日、二十歳前後だったか、小林秀雄を愛読していた。当時、…

メディア・リテラシーの試験問題 ― 集合知・ジャーナリズム・同調圧力/死刑の「合法性」

今年度後期のメディア・リテラシーの授業は今日が最後の講義だった。来週は期末の筆記試験。今年度の後期は、日本学科と応用言語学科という二つの異なったコースの学生たちを一クラスにまとめての授業だった。後者の学生たちは四月から企業研修に入るので履…

新たな原稿依頼 ― ブログ継続にも弾み、あるいは現金な掌返し

今朝、まったく予期していなかったことでちょっと驚いたのだが、先日原稿を送った編集者の方から、新たな寄稿依頼をいただいた。その締め切りが二ヶ月後で、仏語での書評の締め切りと重なるのだが、とてもありがたく嬉しい依頼内容だったので、お引き受けす…

食べられるものたちの声なき声に耳を傾けるとき ― 『現代思想』6月号(5月27日発売)に寄稿した拙論

〈食べる/食べられる〉の関係につての哲学的論考をここのところ執筆していたことはこのブログでも何度か話題にしました。今週月曜日25日が締め切りで、その日の朝に完成稿を担当編集者の方に無事送信しました。本文は与えられた字数制限内の30枚(400字詰め…

反イズム主義者の悲哀

個人的には、エゴイズムにも、ペシミズムにも、オプティミズムにも、ヒューマニズムにも、イデアリズムにも、ニヒリズムにも、プラグマティズムにも、ヘドニズムにも、アニマリズムにも、エコロジズムにも……、数え上げるのが面倒くさくなったから一言で言え…

多元的行動論序説

老生は、動植物の権利擁護を声高に訴える運動家でもないし、肉食を悪魔的行為として異端審問官のように糾弾する完全菜食主義者でもないし、ラディカルなだけが取り柄の乱暴な反種差別主義者でもない。すべての生物種は平等であるとする哲学的根拠を見出せて…

感性的環境論―動的均衡美の探究

論文には書けない心の叫びをここに書かせてください。 特定の宗教によって肉食の是非に最終的な決着をつけることはできない。何を食べてよいか/食べてはならないかを政治的決定に委ねることもできない。倫理的存在価値を動物や植物にまで拡張しても、動植物…

売られた喧嘩はどうか買わないでください

今、私は、別に虫の居所が悪いわけではく、それどころか、原稿は推敲の最終段階に入って気持ちに余裕があるくらいなのだが、その原稿を書いているうちに、これはとても論文の中には書けないなあと思いながら、過激な肉食反対論者(完全菜食主義者と同義では…

〈食べる〉ことの神秘 ― ジャン・ヴァール『ヘーゲル哲学における意識の不幸』より

「食べる」ことについての哲学的考察を二十世紀フランスの様々な哲学書の中から拾い出す作業をしているとき、ジャン・ヴァールの『ヘーゲル哲学における意識の不幸』(Le malheur de la conscience dans la philosophie de Hegel 初版1929年 第二版 PUF 1951…

『中世に動物たちと共に生きる』― 出逢えてよかった一冊の本

今回の執筆した原稿のテーマは、大きく言えば、現代社会における〈食べるもの・こと〉と〈食べられるもの・こと〉との関係を問うことです。特に、肉食批判論の根拠を現象学的存在論の観点から考察しました。その考察の前提として、肉食批判、反種差別主義、…

私にとってのブログの望ましい在り方

出し抜けですが、このブログ、この二ヵ月ほど、身を喰む虚しさを噛み殺しながら、息も絶え絶えの体で辛うじて続けてきました。ただ、途切れさすまいという一念だけが支えでした。「そんなにしんどけりゃさあ、やめりゃあいいじゃん。だれもこまるわけじゃな…

鴨短冥編著『淀みに浮かぶ泡沫(うたかた)語辞典』 編著者のことば

『淀みに浮かぶ泡沫語辞典』(凡庸書房)の編著者である鴨短冥先生は、外つ国の地方都市に独り隠棲する知る人ぞなき貧しい国語学者である。凡庸書房社主(本人の希望により匿名とする)は、ほとんど引きこもりに近い生活をしている鴨先生の唯一人の友人であ…

パレーシアから遠く離れて ― 意気地なしのヒトリゴト

敢えて事を構えるような物言いを私は好まない。誤解を恐れずに公共の場で真実を言う勇気(パレーシア)もない。自分から論争を仕掛けるのも億劫だし、相手を挑発して怒らせるのも趣味ではない。結果、八方美人的で、当たり障りのない言い方を選んでしまい、…

「ヒトリゴティズム」― 鴨短冥編著『淀みに浮かぶ泡沫(うたかた)語辞典』(凡庸書房、「没企画叢書」、非売品)より

「ヒトリゴティズム」って、聞いたことありますか。ないですよね。それもそのはず、こんな言葉、ありませんから。今、私が思いついた言葉(って言っていいのかな?)です。思いついた以上、自分で定義する権利あるいは責任があるのではないかと愚考つかまつ…

「テオクレティズム」― 鴨短冥編著『淀みに浮かぶ泡沫(うたかた)語辞典』(凡庸書房、「没企画叢書」、非売品)より

「テオクレティズム」って、聞いたことありますか。ないですよね。それもそのはず、こんな言葉、ありませんから。今、私が思いついた言葉(って言っていいのかな?)です。思いついた以上、自分で定義する権利あるいは責任があるのではないかと愚考つかまつ…

「アホ」リズム(三)― 生物界に対する「人間的な、あまりにも人間的な」立場

肉食を人類の「蛮行」として批判する立場の一つとして、自己の行いの善悪を判断できる理性を与えられた人類(あるいは、邪悪なる蛇に唆されたエヴァと愚かにも彼女の言いなりになったアダムとがエデンの園の禁断の実を食したがゆえに、二人とも「目が開け」…

「アホ」リズム(二)― 動物の権利をめぐる論争は、ヒト同士の間の「代理戦争」か

動物の権利を主張し、肉食を殺害行為の一環として告発・弾劾する反肉食主義者たちが提起する議論には、当の「被害者」である動物たちは常に不在である。それは、殺害されてしまったから不在なのではなくて、「被告」であるヒトたちと共通言語を持ちえないと…

「アホ」リズム(一)― 食物連鎖の「頂点」

食物連鎖が自然界の「掟」であるとすれば、捕食者の捕食行動はその掟に従っているだけのことで、何ら非難には値しない。生物としての人間もその連鎖の一環を成しているかぎり、その捕食行動は他の捕食者においてと同様に「正当」であり、批判される謂れはな…

原稿作成作業に没頭できる幸せ

今日も午前六時から原稿作成作業。原稿執筆そのものはペース抑えめ。二十冊ほどの参考文献を拾い読みしている時間の方が長かった。幸福な時間だった。 総計字数は八千字になる。制限字数の三分の二に達した。量的にはもうゴールが見えてきた。とはいえ、内容…

筆、走る

午前六時から原稿執筆開始。午後二時まで休憩なしで集中的に書く。六千字ほどになる。指定制限字数のちょうど半分くらい。 筆が走った。いや、走りすぎた。でも、ここから難儀しそう。今週の土曜日までには第一草稿を書き上げるつもり。その後残された一週間…

音読によってはじめて捉えられる思考のリズムがある

昨日は晴れだったが、気温は5,6度と低かった。 子供の頃から手先がかじかみやすい私は、そんな天気のなか自転車でハンドルを握ったまま15分も走ると、防寒用の手袋をしていても指先が冷えきってしまい、指先が痛くなるほどだ。手袋をはずすと、指先からす…

本棚修繕記

昨日の朝、そろそろ大学に講義に出かけようとしていたとき、仕事机右脇の木製の書架の棚の一つが前方に若干傾いていることに気づいた。すぐには原因がわからず、時計をにらみながら、棚の本をすべて下ろし、棚を書架から外してみて、驚いた。本の重みで前方…

雨の中を歩く

今日から二十五日まで、原稿執筆に集中したい。その間、このブログは取り留めのない日常雑記になる。 今日は朝から夕方までずっと雨が降っていた。珍しいことだ。毎日走っているからわかるのだが、昨年七月から、雨のせいで走るのを止めた日は片手でかぞえる…

十七世紀初頭、ヨーロッパでは、人間に対して「犯罪」を犯した動物たちは「処刑」されていた

昨年、スピノザの『エティカ』の新しい仏訳がフラマリオン社から刊行された。これがかなり野心的な企画で、一言で言えば、『エティカ』を一冊の書物として前から順に読めるように工夫が凝らされている。 『エティカ』は、ある定理の証明をそれ以前に証明され…

動物も人間も、その権利は、それぞれの徳と能力に応じて規定される ― スピノザ『エティカ』第四部三七定理注解一について

昨日の記事で言及したモロー氏の注には、神、人間、動物の関係についてのストア派の考え方を代表するものとして、キケロが『善と悪の究極について』(De finibus bonorum et malorum)のなかでソロイのクリュシッポスの考えに言及している箇所を引用している…

人間の動物利用は動物がもっている権利によって制限される ― スピノザ『エティカ』第四部三七定理注解一より

昨日の記事を読んでくださった方のなかに、最後に引用したスピノザの『エティカ』の注解の第二段落のなかの一文を、もしかして逆の意味に取られた方がいらっしゃるかもしれないと気になった。今日はその点について一言補足しておきたい。 問題の一文とは、「…

食べるものの倫理と食べられるものの心理 ― 「動物が人間に対してもっている権利」について

二月初旬から折に触れて「食べる/食べられる」の関係について考えてきた。はっきりとそれとして意識していないときでも、いつもどこかでこの問題のことが気にかかっていた。それくらいこれは大事な問題だと思っていたということである。 切り口はいろいろあ…

ブログ ― 毒にも薬にもなる「ファルマコン」

ちょっとわかりにくい言い方になってしまいますが、ほんとうはモノローグにすぎないものをダイアローグだと思いなし、あるいは、自分では両者をすり替えたことにも気づかずに、けっこうダイアローグができているつもりで会話を続ける、あるいは、そのつもり…

小雪舞う中、今日も走る

昨夜来、小雪が降り、明け方には隣家の屋根や木々が薄っすらと雪に覆われていました。気温も零度。ちょっと躊躇いましたが、午前中、ジョギングに出かけました。防寒装備は十分にしたので寒さは感じず、走っている間は幸い雪もちらつく程度で、1時間で10キ…

もし「あなたは何をしていますか」と聞かれたら

現時点において、「ご職業は」と聞かれれば、「大学教員」ですと答えることに嘘偽りはありません。その答えに特段の誇りもなければ格別の羞恥もありません。しかし、これは定年退官までという年限付きの回答に過ぎません。 もっと端的に、「あなたは何をして…