内的自己対話―川の畔のささめごと

日々考えていることをフランスから発信しています。

2013-06-01から1ヶ月間の記事一覧

「春が来るなら、花が咲く」 ― 日本語についての省察(4)

仮定文を構成する文要素として、四つの接続助詞「と」「ば」「たら」「なら」を初歩で習うが、これらを一通り習った後に、総復習として、これら四つの接続助詞の間にある意味の違いを学生たちに説明する。その際、以下のような、文法的にはいずれも可能な四…

「から」と「ので」との差異について(承前) ― 日本語についての省察(3)

まず、「から」の基本的意味を見直してみよう。「から」は格助詞としての用法と同様、接続助詞の場合も、基本的に「起点・出所」を示す。つまり、そこから何かが出てくる〈場所〉を指している。どういうことか。それは、「から」がその末尾に置かれた節は、…

「から」と「ので」との差異について ― 日本語についての省察(3)

日本語初歩の段階で、単文をいくらか学んだ後に導入される最初の複文型の一つが、理由・原因を表す文型である。学習書によっても違いがあるが、接続助詞「から」をまず学ぶことが多い。これは用法が簡単で、単文の後ろにそのままくっつけるだけで、理由・原…

「私」は « I » でも « je » でもない ― 日本語についての省察(2)

同じ語族に属する言語間であっても、単語レベルで一対一対応をさせることは厳密にはできない。どうしても意味にズレが出てきてしまう。ところが、名詞レベルではそれが比較的容易にできそうに思われてしまう。特にラテン語起源の語を多数共有しているイタリ…

「私は日本語がわかります」― 日本語についての省察(1)

現在、本務校の日本語の授業としては、修士の「日本経済」を担当しているだけだが、日本語初級・中級の文法・作文などの授業を十数年に渡って受け持ってきた。それらの授業での学生たちからの質問や彼らが繰り返す間違いを通じて、私自身日本語における物の…

Intéressant(アンテレッサン)について ― 欧語散策(1)

レミ・ブラッグ Rémi Brague という古代・中世哲学の大家がフランスにいる。パリ第1大学教授。単に古代・中世の専門家として傑出しているだけでなく、現代社会における哲学的問題にも常に注意を払っており、メディアでも発言する。自著の中で認めているが、…

遙かなる眼差し ― 歴史的想像力について

先週金曜日の学部1年の必修科目「日本文明」の追試は幕末が試験範囲。これは学期最後の授業で繰り返し強調しておいたので、学生たちにとっては準備しやすかったはず。実際、4名の受験者の答案のできもよかった。この試験も、6月19日付の記事で話題にした「…

食をめぐる哲学的考察(7) ― 味覚と言語の弁証法(2)

昨日に続き、人と会う。発表原稿の準備が思うように進まず、本当はそれどころではないのにと内心困惑しつつ、遠路遥々パリまで来られた先方が今日しか都合がつかないとかねてから言っていたのだから今さらどうしようもない。昨日までに原稿が仕上げられなか…

食をめぐる哲学的考察(6) ― 味覚と言語の弁証法(1)

今日は、朝からから午後にかけて、本務校で今年度後期の学部の追試。その後は久しぶりにオペラ座近くで人と会う。夕食を共にする。 気心の知れた人たちと食事を共にするのは楽しい。その時、料理そのものが美味しいに越したことはないが、仮にそうではない場…

雨中、オルタンシアの華影、そして紫陽花幻想

今朝も目覚めると雨。日本の梅雨を思わせる、しとしと降る雨。その雨の中、今朝も昨日と同じプールへ。天気が悪かろうが10人程度の常連達は7時前には門扉前に並ぶ。私もその1人。夏が近づくと、利用者は自ずと増える。年間を通じての常連である私などには、…

「ペラペラ」についての一考察

明け方、目覚めると雷雨。午前7時、雨中、いつも通っているパンテオンの近くの、アンリ4世校に隣接するプールへ。このプールが自宅から最寄りとなるが、徒歩15分。早足で歩けばちょうどいい準備運動になる。30分で1200メートル。コースが混んでくる前に上が…

Pensée contemporaine ― 同時代思想ということ

今日午前中はパリの大学で前期に担当していた "Pensée contemporaine" という講義の追試の試験監督。受験者4名。試験時間3時間。試験問題は前後半に分かれ、前半は授業中に解説した日本語のテキストの中から私が選んだ、二つの数行からなるテキストの仏訳。…

Disce gaudere ― 楽しむことを学べ

今朝も7時からプール。パリには38の市営プールがあるが、月曜日はその大多数が休み。月曜も営業している数少ないプールの1つがセーヌ川の上にあり、今日はそこに行ってきた。セーヌ川に浮かんでいる大きな平底船のような施設で、その中にプールとスポーツ・…

食をめぐる哲学的考察(5)

16日日曜日、朝は青空が広がり、幾筋も交錯する飛行機雲を、プールの帰り道に歩きながら見ていると、清涼な大気が胸中にも流れこんでくるような爽快感。午後は薄雲に覆われがちだったが、それは上空高い位置にとどまり、むしろ穏やかな明るさに風景全体が包…

食をめぐる哲学的考察(4)

東京の実家には8年前に三ヶ月あまり帰国した時にまとめて送り返した本がまだ数千冊書庫に残したままになっているのだが、その大半は仏語の本。その中のいずれかをこちらでまた参照する必要が生じても、まさかその度に送り返してもらったのでは送料も嵩んで…

食をめぐる哲学的考察(3)

14日は前日よりはいい天気。午前中は薄曇りだったが、午後になって晴れ間が広がり、夏雲が隆起する。気温は低めに推移。日中でも20度超すか超さないかといった程度。朝の日課の水泳はいつも通り。その後は一日原稿書きに集中するつもりが、なんとなく気乗り…

食をめぐる哲学的考察(2)

今週に入って、夏の陽射しはまたどこかへ遠ざかってしまった。今日13日は朝から曇り、昼前になって雨が降り出し、午後5時頃まで降り続ける。気温は日中を通じて18度前後。雨があがると、それまで西空を覆っていた厚い雲の間に青空が広がり始め、室内に柔らか…

食をめぐる哲学的考察(1)

11日火曜日午後は学科会議だった。9月からの新学年に備えての次期学科長選挙。立候補者1名のため、承認投票。全会一致で承認。その次期学科長から立候補の際に指名されていた副学科長の一人として私の任命も全会一致で承認される。これで私が責任を持つコー…

鏡の中のフィロソフィア (承前)― 講義ノートから(3)

この夏の集中講義は7月末から8月初めにかけての5日間。最近は哲学科修士でもフランス語が読める学生は少ないとのこと、この集中講義は原書講読のための演習でもないので、参考文献はできるだけ邦訳のあるものを使うことにしている。それに履修者たちの専攻は…

鏡の中のフィロソフィア ― 講義ノートから(2)

鏡の中に私が見ているのは誰か? この問いがあたかも閃光のように突然私を襲ったのは、映画『薔薇の名前』(原作ウンベルト・エーコ)の中で、主人公のバスカヴィルのウィリアムスと見習い修道士のアドソが滞在先の修道院の迷宮のような図書館の中で出口を探…

日曜日、窓外の雨と雲を眺めながら ― 講義ノートから(1)

6月に入ってようやく遅れてやってきた初夏の陽射しが心にも射し込む思いがここ数日していたのに、今日9日日曜日は朝から小糠雨。空は一面灰色、どこに太陽があるのかもわからない。気温も上がらず、窓を開けたままだと寒い。自宅から徒歩10分ばかりのとこ…

初夏、静かな土曜日、窓外の風景から

今日も―ブログ上の日付からすると昨日になるが―日中は比較的いい天気だった。前日ほど澄んだ青空ではなかったが、日中の気温は27度まで上がった。湿度は低く、空気はサラッとしていた。ところが、夜になって空は雨雲に覆われ、俄雨が降りだした。午後9時近く…

午後の陽射しの中、時間が止まる

今日は午前中が成績判定会議、午後が学生たちの答案閲覧の立ち会い。どちらも大した仕事ではなく、両者の間の空き時間に研究室で上田閑照の著作を読み返し、仏語の発表原稿の準備をしていた。だが、まだ記事にするほど読み込めていない。この週末に集中して…

虚と空(承前)

昨日の記事の末尾で、「あるテキストを手がかりに」と書いたとき念頭にあったのは、仏語の発表原稿でも引用するつもりでいる上田閑照の文章だった。複数あるので、まずそれらのタイトルと出典を列記しておく。 「『世界』の見えない二重性 ― 『虚空/世界』…

虚と空

今月28日、パリを主たる拠点とする、「アジアと西洋の芸術的言語の比較研究」グループの主催で、「美学的・芸術的概念:鍵言葉、翻訳不能な言葉」というテーマの研究集会が開かれる。そこで私も発表する。テーマは、集会主催者に先月すでに伝えてある。その…

習慣論(2)

ラヴェッソンの『習慣論』をその思想の深みにおいて私が充分に理解できているとは言えない。しかし、このわずか原書で数十頁、邦訳でも70頁足らずの論文は、読むたびごとに新たなインスピレーションを与えてくれる。以下に述べるのは、『習慣論』の中立的な…

習慣論(1)

先月5月、博士論文の審査員の一人として公開審査に参加したが、そのためにそれまでの一ヶ月間、その論文の主たる研究対象であるメーヌ・ド・ビランとラヴェッソンの著作を読み返していた。両者ともに自分の博士論文でも取り上げた哲学者であったこともあり…

住まうということ

一昨日6月1日土曜日午後、哲学祭という三週間を超える大規模な企画の中の一つのプログラムに発表者として参加した。主催者側からの要望は、日本における哲学の受容について話してほしいということだったので、自分の研究領域にも関わり、大学の講義でも取り…

とにかく始めてみる

新しいことを一つ始め、それを規則的に継続することで、少しは自分の日常に変化を与えることができるだろうか、というのがこのブログを始める動機です。 かつては、クラッシック音楽の情報が欲しくて、関連するたくさんのブログを毎日のように見ては、その豊…