内的自己対話―川の畔のささめごと

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新しい世界像の展開の先蹤 ― ジルベール・シモンドンを読む(17)

 シモンドンは、個体化の結果として暫定的に得られたに過ぎない個体から事後的に世界を再構成するあらゆるタイプの思考を批判する。なぜなら、それはまさに本末転倒だからである。ところが、基底として何らかの安定的な自己同一的な要素を、単数か複数かの違いはあれ、何らかの仕方でいずこかに想定する思考は、およそ二十世紀の初めまで、西洋における物の見方や世界観を大きく規定してきた。しかし、いかなるタイプの同一性理論も現実を完全に説明し切ることはできないと考えるシモンドンは、それゆえ、真に包括的な世界像の構築を可能にする独自の新しい哲学を構想しようとする。
 安定的な同一性を根拠とする世界像を根底から揺るがす理論を生み出したのが二十世紀の物理学であり、シモンドンは、そこに自身が構想する個体化一般理論へと至る新しい世界像の展開の先蹤を見出す。シモンドンは、量子力学一般をよく理解していたようだが、特に波動力学に強い関心を示し、ルイ・ド・ブロイの著作を熟読していた。
 最新の物理学の成果の中にシモンドンが見ているのは、非実体的個体化理論の物質の世界における展開である。粒子と波動の二重性は、シモンドンによれば、前個体的存在の二つの表現の仕方として考察されうるだろう。このように物理の基礎概念が修正され組み合わされる必要があるということは、それらの概念がそれまではただそれぞれが「個体化された現実」(« la réalité individuée »)に適合しているだけで、そのままでは「前個体的現実」(« la réalité préindividuelle »)には適用不可能だということをおそらくは意味している。