内的自己対話―川の畔のささめごと

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理系の知と文系の知を架橋する情報学

 昨日話題にした森正人氏の『戦争と広告』の後にメディア・リテラシーの授業の前期後半で取り上げるのは西垣通氏のいくつかの著作である。いずれも電子書籍版である。紙版の初版の刊行年順に列記すると、『こころの情報学』(ちくま新書 1999年)、『ネットとリアルのあいだ ―生きるための情報学―』(ちくまプリマー新書 2009年)、『集合知とは何か ネット時代の「知」のゆくえ』(中公新書 2013年)、『ネット社会の「正義」とは何か 集合知と新しい民主主義』(角川選書 2014年)、『AI原論 神の支配と人間の自由』(講談社選書メチエ 2018年)。
 西垣氏の一般向けの著作は、情報学、ネット社会、人工知能集合知、AIなどに関わる大きく難しい問題を取り上げながら、論点が明確に示され、議論の展開が明快で、文章も構文的にとてもわかりやすい。メディア・リテラシーの授業で学部学生に読ませる日本語としては、構文や語彙にあまり悩まされずに内容の理解に集中できる文章として、これ以上の文章はなかなか得難い。内容的には面白くても、構文的にいたずらに難しく(書いた本人はそれで格好いいと思い込んでいるのかも知れないが……)、授業で取り上げることを諦めた本のなんと多いことか。
 しかも、理系の知と文系の知とが見事にブレンドされていて、とかく一方に偏りがちなものの見方の盲点が的確に示され、上掲の諸分野についての私たちの蒙を啓いてくれる。授業では上掲のそれぞれの本のごく一部しか取り上げることができないが、それをきっかけにそこに示された諸問題に学生たちが興味・関心をもってくれることを切に願っている。